コラム|定期借家とは(最近の裁判例も踏まえた対応法)

弁護士 佐々木好一 

 武蔵小杉の法律事務所、田中・石原・佐々木法律事務所の弁護士の佐々木です。
 不動産法に関わる弁護士として、今回は「定期借家」についてご説明したいと思います。定期借家については、最近裁判例が出されていますので、これも合わせて紹介していきたいと思います。

1 定期借家とは

  通常、建物の賃貸借契約を結んだ場合には、借地借家法が適用されるため、賃借期間が満了した場合でも「正当な事由」がなければ更新を拒絶することができないとされています(借地借家法28条)。
 正当事由は、単に建物を建て替えたいというだけでは容易に認められないため、大家さんとしては、いったん建物を貸してしまうと容易に借主に退去してもらうことができないという不便さがありました。
 この問題を解消するためにできたのが「定期借家」です(正式には「定期建物賃貸借」といいます。)。
 定期借家によることで、契約の更新なく建物を貸すことができるようになり(借地借家法38条)、一定期間は貸したいけれども、それで終わりにしたいという大家さんの希望に沿う形にすることができます。

2 定期借家のための要件

 定期借家とするためには、以下のいくつかの要件を満たす必要があります。

期間の定めのある賃貸借契約であること
 当然ですが、「定期」ですので、期間の定めを設けて賃貸借契約を締結する必要があります。なお、この期間は確定したものでなければならず、例えば「建て替えをするときまで」のように不確定な期間とすることはできませんので注意が必要です。

書面によって契約をすること
 定期借家とするためには、書面によって契約をする必要があります。
 できれば公正証書とした方がよいと思いますが(公正証書にすれば、公証人の面前で契約をすることになるため、後で間違いなく契約書を作成したといいやすくなります。)、そうしなければならないわけではありません。
 なお、書面には、ア 期間の定め、イ 当事者、ウ 対象となる建物、エ 建物の賃貸借契約であること、オ 契約の更新がなく、期間の満了により賃貸借が終了することを記載しておく必要があります。

あらかじめ、書面を交付して説明をすること
 この書面は必ずしも契約書と別個に作成する必要はないと考えられていますが、後で述べるように説明をしっかりとするという観点からは、別個の書類を作成しておいた方がよいかと思われます。

期間満了の1年前から6か月前までの間の通知
 定期借家の期間が1年以上である場合には、期間満了の1年前から6か月前までの間に、借主に期間満了により賃貸借が終了することを通知しなくてはなりません。
 特に書面で通知しなければいけないとはされていませんが、後日紛争になった場合に備えて、配達証明付内容証明郵便で通知をしておいた方がよいと思います。

 上記①~③の要件を欠くと普通借家として更新されてしまい、④を欠くと賃貸借が終了していることを借主に主張することができなくなってしまいます(もっとも、④については後で述べる裁判例のとおり、後日の通知で対処可能です。)。

3 近時の裁判例

  定期借家に関して、最近、2つの裁判例が出されていますので、紹介します。

期間満了後に終了通知を行った場合について(東京地判平21・3・19)
 本件は、所定の契約期間満了後に賃貸借が終了した旨の通知をした事案です(本来であれば期間満了の一定期間前に通知をする必要がありました。)。
 この事案では、④の要件を欠いたから普通借家になってしまうのではないか(そうなると容易に賃貸借を終了させることができなくなります。)が争われましたが、東京地裁は、結論として、この場合でも定期借家の性質が変わることはなく、通知の日から6か月を経過した後は借主に対して賃貸借の終了をいうことができると判断しました。
 この判決からすれば、通知を忘れたとしても、致命的な問題にはならないとはいえますが、6か月は借主に出て行ってもらえなくなってしまうため、やはり通知は忘れることなくしておく必要があります。
なお、この判決と異なる見解も有力に主張されていますので、今後の展開には注意が必要です。

定期借家であることの説明が不十分とされた事案(東京地判平24・3・23)
 本件は、貸主が契約書のほかに説明書を渡して借主に定期借家であることを説明して契約をしたものの、借主から定期借家であることの説明がされておらず、上記③の要件を欠くから普通借家となると争われた事案です。
 東京地裁は、定期借家の制度や契約期間が満了すれば確定的に契約が終了してしまうことを借主が理解できる程度の説明をしなくては上記③を満たしたことにはならず、説明書を読み上げる程度では足りないとして、借主の主張を認めました。
 この判決からすると、契約書とは別に書面を用意した上、質問を受け付けるなど、できるだけ借主にわかりやすく説明をしてあげなくてはいけないと考えられます。

4 定期借家の上手な利用法

 このように大家さんにとってはメリットのある定期借家ですが、借主にとってはずっといられることの保証がないため、なかなか定期借家には応じにくく、その結果、定期借家自体なかなか利用しにくいものになってしまっています。
 これを利用しやすくするための方法の一つとして、「再契約を保証した定期借家契約」が考えられます。
 これは、更新はしないものの、期間満了とともに、再度賃貸借契約(これも定期借家で)をすることを保証してあげる旨の特約を結んでおくもので、先に述べたような借主の不安を解消することができます。また、一定の場合(例えば、何度か賃料の支払いを遅滞したり、周辺住民に迷惑をかけるようなことをした場合など)には再契約を保証しない内容にすれば、大家さんにとっても定期借家のメリットを生かしつつ、建物を貸すことができます。

 定期借家は大手の不動産会社では利用しているところもありますが、未だ一般には浸透しているとは言いにくい制度です。
 説明したように、うまく利用してあげれば、メリットの多い制度でもありますので、要件に気を付けながら上手に利用することをお勧めします。
 定期借家の利用をお考えの方や現に利用していて困ったことがある方がいらっしゃいましたら、ぜひ当事務所にご相談いただければと思います。

以上

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