コラム|昨今の労働事件・労働紛争について

弁護士 田中康晃 

 弁護士の田中です。
 近年、労働相談が非常に増えています。従業員の方々の権利意識の高まりとともに長引く景気低迷による職場環境の悪化などがその主な要因と考えられます。
 そして、昨年10月に改正派遣法(日雇派遣の原則禁止等)が、本年4月1日には改正高年齢者雇用安定法(いわゆる65歳までの継続雇用制度の導入や定年引き上げなどの改正)がそれぞれ施行され、さらには第二次安倍政権の下で解雇ルールの見直し論議が再燃しており、今後も労働法制の整備・改正が大きく行われ、皆さんの労働環境にも大きな影響を与えることは必至といえます。

 本コラムでは、そもそも労働事件や労働紛争にはどういうものがあるのか、その救済方法はどういったものがあるのか等を説明していきたいと思います。

1 労働事件・労働紛争とは

 労働事件・労働紛争はなぜ頻繁に起きてしまうのでしょうか。
 大多数の人が会社に属し給料をもらって日々生活している中で、約束した給料が払われない、正当な理由がないのに解雇された、等の問題が起きたら一大事です。
 しかし、こうした身近な問題であるにも関わらず、近年、新しい法律が次々施行され法改正も相次ぎ労働法制の内容が複雑化してしまっているため、事業者側・従業員側双方が、そうした労働法制の知識を十分持ち合わせないままお互いに誤解や齟齬が生じ、結果として紛争にまで発展してしまうのです。

2 主な労働事件・労働紛争

 では、具体的な労働事件・労働紛争にはどういったものがあるのでしょうか。以下に主なものを列挙します。

(1)未払い賃金請求
 やはり最初に相互不信に陥るのが賃金問題です。約束された賃金が支払われない、サービス残業をさせられる、残業代が出ても労働基準法が定める割増賃金が支払われない等様々なケースがあります。ただし、賃金請求権の消滅時効期間は2年間なので請求にあたっては注意が必要です(退職金請求権の消滅時効期間は5年)。

(2)メンタルヘルス問題
 事業者側は、従業員の生命及び身体等の安全を保護するよう配慮すべき義務があります(安全配慮義務)。これは、従業員の心の健康(いわゆるメンタルヘルス)についても、その健康を損なわないよう事業者側はきちんと予防措置等をとるべきことも意味しています。
 しかし、昨今、一人あたりの仕事量が増加し、責任も重くなる中で心の健康を害する従業員が増えてきており、事業者側の責任が問われる事件も増加しています。

(3)解雇問題
 解雇には、主に「普通解雇」、「懲戒解雇」、「整理解雇」があります。
 懲戒解雇は懲戒処分の一環として行われる解雇を意味し、普通解雇はこの懲戒解雇と区別して事業者側からの一方的意思によって労働契約を解約する場合を意味します。
 また、整理解雇とは、一般に経営不振等を理由として行われる人員削減のことを意味します。
 しかし、解雇によって従業員はいきなり生活の糧を失うわけですからその影響は甚大です。ですので、事業者側は、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には、従業員を解雇することができません(労働契約法16条)。
 こうした厳格な要件を満たした上での解雇かどうか、またそもそも「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない」というのが曖昧なところもあり、不当解雇かどうかが争いとなってくるのです。

(4)競業避止義務の問題
 一般に従業員は、在職中、勤務先に対する競業行為を行わない義務(競業避止義務)を負っていますが、特に問題となるのは退職後の競業行為です。
 退職後の競業行為は、職業選択の自由(憲法22条1項)や自由競争の原理から原則自由であるため、競業避止義務を負わせるとしても、その必要性や範囲(期間、地域など)、競業行為の態様等に着目してその競業避止義務の有効性が判断されることになります。

(5)外国人と労働法
 日本で就労する外国人についても、適法就労か不法就労かを問わず、労働者保護法が適用されます。
 労働者保護法とは、一般に労働関係における労働者の保護を図る法律全般を指し、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法等がこれにあたります。
 しかし、現実には外国人を不当に安い賃金で働かせたり、劣悪な労働環境で働かせ、後々重大な労働問題に発展することも少なくありません。

3 解決・救済方法

 ではこうした労働問題や労働紛争の解決手段としては、どのようなものが考えられるでしょうか。

(1)裁判手続(労働訴訟)
 まず第一に、やはり裁判手続(労働訴訟)が考えられます。解雇など従業員側の不利益がきわめて大きい事案では裁判に至るケースも少なくありません。
 とはいえ、裁判手続きには時間や費用がかかり、それでも満足のいく解決が得られるかどうかの見通しが立ちにくいことも多く使い勝手は決していいとはいえないでしょう。

(2)労働審判制度
 そこで、労働紛争を迅速に解決するために産み出されたのが労働審判制度です。
 労働審判は、申立てから40日以内に第1回期日が行われ、原則3回以内で紛争解決を図るという制度で、平成18年4月1日にスタートしました。裁判と比較とすると使い勝手もよく、早ければ3ヶ月程度でまとまるので、近年労働審判を申し立てるケースが非常に増えています。

(3)保全処分(仮処分、仮差押え)
 保全処分とは本訴(裁判)提起を前提として、裁判所が仮に現在の地位を保全したり、賃金の仮払い等を命ずる処分(決定)です。
 ただし、保全処分には、保全の必要性(緊急の必要性)がある場合に限られるので、不当解雇、配転もしくは大幅な賃金切り下げ等の事案以外では、活用しにくい面もあります。

(4)その他
 集団的労働紛争の事案においては、労働組合を通じ労使協議会や団体交渉を行って解決する方法があります。
 また、各都道府県が所管する労働委員会での労働相談やあっせん、都道府県労働局ごとに設置されている紛争調整委員会によるあっせん手続きもあります。(ただしあっせんを相手方に強制することは出来ません)。
 さらには労働基準監督署への申告等も、労働相談のひとつの窓口として考えられるでしょう。

4 さいごに

 今回テーマにあげた労働紛争の個別論点や問題点についても、今後コラムで詳しく書いていく予定です。
当事務所では労働問題も多く取り扱っておりますので、お困りの事業者の方、従業員の方がいらっしゃいましたら当事務所までお気軽にご相談ください。

以上

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