コラム|契約書に関する留意点

弁護士 石原廣人 

 田中・石原・佐々木法律事務所、弁護士の石原です。

 当コラム欄では、当所所属弁護士によって、今後定期的に法律に関するお役立ち情報を掲載いたしますので、皆様のビジネスや生活におきましてぜひ参考にして頂ければと思います。

 今回は、これまで弁護士として数多くの契約交渉・契約書作成に関わってきた経験から、契約書を作成する必要性、及び契約書を作成する際の留意点について簡単にご紹介します。

● 「契約」とは?

 「契約」とは、ある者とある者の約束(合意)であり、契約が成立したことの効果として、契約内容に応じた相手方に対する権利が発生します。たとえば、AがBに100万円で車を売るという内容の売買契約が有効に成立した場合、この売買契約を根拠として、①AのBに対する100万円の代金支払請求権と、②BのAに対する車の引渡請求権が発生します。

● なぜ契約書が必要か?

 上記のとおり「契約」とは当事者間の合意ですが、この合意は必ずしも書面でなされる必要はなく、原則として口約束によっても有効に成立します。
 もっとも、後日当事者間で契約の存在や内容に争いが起こった場合(たとえば上記のBが「車の代金は2割引の80万円と約束したはずだ」と言ってA・B間でトラブルになったような場合)、当時の契約内容について何の書面も残っていないと、お互いの主張が水掛論となり、無駄な労力や費用がかかってしまいます(特に、一方の会社の担当者が変わった後に契約内容に争いが発生した場合などにトラブルが発生しやすく、かつトラブルの解決が困難になります。)。
 この場合に、契約当時に適切な契約書が作成されていれば、契約書を相手方に示して説得したり、契約書を証拠として裁判所に提出して裁判を有利に進めたりすることができます。
 このように、将来のトラブルを未然に防いで無駄な労力や費用の発生を抑制する点に、契約書を作成する意義があります。

● 契約書の締結権限

 トラブル防止のために契約書を作成したとしても、その契約書の効果が当事者に及ばなければ意味がありません。
 具体的には、会社を代表して契約を締結する権限のない者が勝手に会社名義の契約書に署名押印したような場合には、その契約の効果は原則として会社には及ばないことになります。
 このような事態を避けるため、契約書を締結する場合には、署名押印した者に会社を代表する権限があるかについて確認することが望ましいと考えます(特に金額の大きな重要契約においては、相手方の会社の登記簿謄本や代表者の印鑑証明書により、契約締結する権限の有無を確認することがよいでしょう。)。なお、個人を相手方とする契約については、契約の相手方となる個人が契約書の名義人本人であるかを確認することになります。

● 契約書の内容

 当事者間で合意された「契約」には、原則として当事者間で合意されたとおりの効力が認められます(これを「私的自治の原則」といいます。)。
 もっとも、法律で定められたり、判例で認められたりした一定の事項については、たとえ当事者間で合意したとしても、合意されたとおりの効力が認められない場合があります(たとえば、通常の建物賃貸借契約において一切更新を認めないとする合意は借地借家法により無効となります。)。
 このように、せっかく契約書を締結してもその内容が無効であっては意味がないため当初から有効な内容の契約書を作成する必要がありますが、いかなる事項が当事者間の合意により覆せないのかという判断には法律的な専門知識が不可欠となります

● 契約書の準拠法

 グローバル化が進む現代、特に長期に渡る円高が続く昨今では、大企業のみならずベンチャー企業においても海外進出が活発になってきています。
 海外進出に際しては、外国法人(又は個人)を相手方とする外国語による契約書の締結が不可避となりますが、その際には、当該契約書の準拠法をどの国の法律とするかについて特に留意が必要となります(準拠法とした外国法と日本法のルールが異なる場合、日本の常識とは異なる結果が生じる可能性があります。)
 契約書における準拠法は原則として当事者が自由に決定できますが、契約内容によっては準拠法選択のルールが決められているものもありますので、外国の相手方との間の契約書を締結する際には専門家のアドバイスを受けることが望ましいでしょう

 

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