コラム|中小企業の事業再生(民事再生編)

弁護士 佐々木好一 

 武蔵小杉の法律事務所、田中・石原・佐々木法律事務所の弁護士の佐々木です。
 今回も引き続き中小企業の事業再生についてお話ししたいと思います。
 景気の低迷を受けて平成21年12月に施行された金融円滑化法によって、多くの中小企業は元本の返済の猶予などを受けていたと思われますが、同法は平成25年3月で終了することとなっています。
 そのときになってこれからどうしようと悩んでいるのではもはや手遅れとなってしまいますので、事業再生としてどのような方法があるのかを知っておくことはとても大事なことです。
 なお、田中の執筆した「中小企業支援協議会の活用」もご参照いただけると事業再生についてよりわかると思いますので、こちらもご覧ください。

1 事業再生の方法

 事業再生には、私的整理と法的整理、再建型と清算型という分類があります。
 私的整理とは一般的に裁判所の関与する法的整理以外のものをいい、法的整理とは裁判所が関与する整理手続(破産、民事再生、会社更生及び特別清算)をいいます。
 また、再建型とは負債の一部免除などを受けることで再生を図るタイプの手続(民事再生や会社更生など)をいい、清算型とは財産をすべて清算して負債を整理するタイプの手続(破産など)をいいます。
 今回は、再建型の法的整理である民事再生についてご説明します(中小企業再生支援協議会スキームによる私的整理については田中のコラムをご参照ください。)。

2 民事再生

(1)民事再生の基本
 民事再生は、破産のおそれのある法人等が、自ら立てた再生計画案について債権者の同意と裁判所の認可を得て、負債の減免などを受けることによって事業を再生するというものです。

(2)手続の流れ  
中小企業の民事再生/手続の流れ 田中・石原・佐々木法律事務所 破産の原因となる事実の生じるおそれがあるような法人等が対象となります(例えば、近いうちにキャッシュフローが破たんし、手形の不渡りを出してしまうような場合などです。)。
 申立てをするとおおむね以下のような流れで手続が進みます(以下は東京地方裁判所のスケジュールです。他の裁判所の場合は多少異なります。)。

 民事再生手続では、会社は、裁判所の選任する監督委員の監督のもと従前どおり事業を継続することになります。そして、再生計画案を提出し、債権者集会で決議を受け、裁判所の認可決定を得て再生を進めていくことになります。
 その間、会社は、実態を知るために自らの資産等を簿価から時価(基本的に清算価値)に引き直し(財産評定)、なぜ会社がこのような状況に至ったかなどについての報告書を作成して、これらを踏まえて今後の事業計画を立てていくことになります。

 その後、債務免除やリスケジュールなどを内容とする再生計画案を策定し、債権者集会で債権者の頭数の過半数、議決権の2分の1以上の賛成を得ると再生計画案は可決され、その内容が法律に違反しているなどしなければ裁判所が認可決定を下すことになります。


(3)再生計画の内容
 再生計画は、事業計画に合わせて策定することになります。
 事業の再建の方法としては、大きく自主再建方式とスポンサー方式が考えられます。
 自主再建方式は会社を自力で健全化させて事業を再生させるというものです。
 この場合には、一定割合で債務を免除してもらい、最長10年間での分割払いをするという内容の再生計画案となることが多いと思われます。
 他方、スポンサー方式は、主にスポンサーへの事業譲渡や会社分割をして、事業をスポンサーの元で再生させていくというものです。
 この場合には、一定割合で債務を免除してもらい、それを一括して支払う内容の再生計画案を策定することが多いと思われます(会社自体は清算することが多いでしょう。)。
 いずれの方法をとるかは会社の状況によりますが、上記のとおり債権者の多数の賛成を得なくてはなりませんので、賛成を得られるような内容にすることが最も重要です。

(4)事例紹介
 私が過去に申立代理人として関わった事例では、ある会社が、銀行からの借り入れが難しくなり、このままでは手形の不渡りを出してしまうということで民事再生の申立てをしました。
 最も懸念される信用毀損による仕入等の継続については、申立後すぐに債権者説明会を開き、民事再生手続開始決定後の仕入れ分についての支払いは停止しないことを説明するなどして対応したため、それほど問題にはならずに済ませることができました。
 この事例では、当初、経費削減などによって事業を黒字化し、圧縮した負債を10年間にわたって分割弁済する自主再建での再生を目指したものの、経費削減による効果が思ったほど現れず、自主再建を断念することとなりました。その後、スポンサーに事業譲渡をして事業自体は再生をし、再生会社自体は、譲渡代金などを原資として圧縮した債務を一括弁済した後、清算することとしました。
 金融機関などとも適宜交渉しながら、最終的に再生計画案を賛成してもらい、認可決定を受けることができました。

3 手続選択の基準

 手続は以上のとおりですが、会社が事業再生をしようとする場合、民事再生をすべきか、それとも中小企業再生支援協議会などの私的整理を選択するかについて、どのように考えるべきでしょうか。
 私見としては、まず私的整理である協議会スキームを選択できないかを検討した方がよいと思います。
 ここで、双方のメリット・デメリットをご説明します(これは、法的整理と私的整理の一般的なメリット・デメリットともいえます。)。

① 民事再生
【メリット】
・裁判所の関与する手続であるため、手続の公正性を担保できる
・債権者からの強制執行等を停止することができる
・手続開始時のすべての債権の支払いを一時停止することによりキャッシュ フローを維持しやすくなる
・多数決で再生計画案が決まり、反対した債権者に対しても効力を生じる
【デメリット】
・民事再生を申し立てたことが知られてしまうため、信用毀損により仕入れなどが困難になるおそれがある

② 協議会スキーム
【メリット】
・合意により柔軟な再生計画を策定できる
・公表されず、また商取引の債権者を対象としないため信用毀損が少ない
【デメリット】
・対象となる債権者全員の同意を得なくてはならない
・当然に強制執行等を止めることはできず、財産の保全が難しい場合がある

 中小企業によって信用毀損の影響は極めて大きく、民事再生を申し立てたものの事業を継続できなくなってしまうこともあり得ます。そこで、まずは協議会スキームが可能かを検討し、当面のキャッシュフローも覚束ず、近く手形の不渡りを出してしまうようなときには民事再生を選択するのがよいのではないかと思います。

4 終わりに

  先にお話ししたとおり、金融円滑化法が終了することなどを踏まえれば、いかにして事業再生をしていくかを考えることは必要不可欠です。
 今回は民事再生と協議会スキームについてご説明しましたが、私的整理にはその他の方法(私的整理ガイドラインなど)もあり、どの方法によるべきかは個別の事情を検討して決めていくことが重要です。
 当事務所では事業再生にかかるご相談も受けておりますので、お困りの方はお気軽にご相談ください。

以上

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