コラム|債権回収のポイント

弁護士 佐々木好一 

 武蔵小杉の法律事務所、田中・石原・佐々木法律事務所の弁護士の佐々木です。
 今回は、会社にとっては大変重要な「債権回収」についてお話したいと思います。
 会社は営業→受注→回収というサイクルで収益をあげていくものですが、回収というのはなかなか難しく、また、取引先が倒産するなどしてしまうと、十分な回収ができないようなことも少なくありません。
 上手な債権回収の知識を持っておくことは、究極的には会社の利益を拡大させることにもつながりますので、しっかりと意識しておく必要があるでしょう。

1 債権管理

 債権回収はなにも信用不安が起きてしまった後のことばかりをいうのではありません。
 平常時、信用不安時、倒産などの緊急時という3段階に合わせてその時々に適切な行動をとることが重要なのです。

 そのためには、まずは、平常時の債権管理が重要です。
 債権管理とは、誰に、いくらの債権を有しているか、そのための証書の保管が間違いなくできているかを管理しておくことです。
 誰にという点に関しては、登記簿や決算書類を提出させるなどして、会社の所在や状況を確認しておくことも重要です。きちんとした管理ができていないと、その取引先が信用不安状態にあるかもわからぬまま、突然倒産の連絡が来て回収が不可能になるということもあるためです。
 また、今後の信用不安に備え、契約をする際に、①担保の設定、②契約書での期限の利益の喪失や相殺の約定の設定をするなどしておくことも検討すべきでしょう。①は、担保を取っておくことで、何の担保も取っていない債権者に優先して債権を回収できることになります。また、②は、通常、掛けや分割払いでの取引をしている場合、信用不安が起きても当初約定した支払期日まで待つ必要があります(これを期限の利益といいます。)が、この期限の利益を信用不安に陥った場合などの一定の場合に失わせるようにしておくことで、いざというときに残金を一括して支払うよう請求し、早期に回収を図ることができるようになります。

2 信用不安時のアクション

 同業者から資金繰りが悪化しているらしいという噂が出たり、支払いが滞っているという話が聞かれてくるなど、当該取引先の信用に不安が生じたという場合には、まずは、信用情報の正確性について確認をすることが重要です。
 方法としては、取引先の会社の謄本や本店所在地の不動産の謄本を取得することが考えられます。会社の役員や本店所在地がころころ変わっていたり、本店所在地の不動産に抵当権が重ねて設定されているようなことが窺われるようなときには、その取引先は信用不安にあると推測されます。取引先を訪問して会社の中の状況を確認することでわかることも少なくありません。
 その上で、実際に信用不安が生じていると思われるときには、早期に対応することが重要です。このような場合には、他の債権者も動いている可能性もあり、早期に対応することで回収の実効性が上がるためです。
 その際の対応としては、担保を要求する、支払サイトを短縮する(支払時期を早めることで、倒産のリスクを軽減することができます。)、相殺(自社が取引先に債務を有しているときはそれを使い、ない場合には他に当該取引先に負債を抱えている会社(関連会社等)の債務を引き受けるなどしてあえて債務を作り出すことも重要です。)、契約解除(取引を終了させることでさらなるリスクの拡大を防ぐことができます。)が考えられます。これらのいずれをとるか、あるいはとらないかを速やかに判断し、迅速に的確な対応をとることが重要です。
 ところで、こういった方法で回収した場合、のちにその取引先が破産などしてしまうと、その行為を取り消されてしまう可能性があります。
 しかしながら、リスクがあるからといって何もしないというのでは回収はできなくなってしまいます。最終的に取り消されるかどうかは裁判所が決めることですので、取り消されるリスクははらみつつも早期に対応することは重要といえます。

3 倒産間近などの緊急時のアクション

 取引先が倒産間近という場合には、2以上に急ぐ必要があります。ここで担保を新たに取得しても、回収の可能性はそれほど上がりませんので、破産してしまう前に相殺をしてしまう、契約を解除して納品した物を引き上げるなどすることが重要といえます。
 なお、仮に当該取引先が破産等してしまった場合に、当該行為が取り消されてしまうリスクがあることは先に述べたとおりです。倒産間近のような状況ですと、このリスクはさらに大きいといえますが、取り消されるまでは有効として取り扱われますので、何もしないよりは債権回収に向けて行動を起こすことが重要と考えられます。

4 倒産してしまった場合

 取引先が倒産(破産や民事再生など)してしまった場合には、これらの手続に従って回収することになります。
 倒産手続においては、倒産した会社の残存している資産を全債権者に案分して配当することになるため、回収できる金額はかなり少なくなってしまうことが現実です。
 なお、この場合であっても、一定の債権債務については、一定期間相殺をすることが認められています。
おおまかにいうと、倒産手続の開始決定の前の原因により生じた債権と債務について、民事再生の場合には、債権届出(自社が当該取引先に対していくら債権を有しているかを届け出ること)の期間内であれば、相殺することができます(破産の場合にはこのような期限の制限はなく、最後配当に関する除斥期間の満了(配当についての公告または債権者あての通知があった時から2週間)までなら相殺は可能です)。
 ですから、取引先が倒産した場合には、当該取引先との債権債務関係を精査し、相殺が可能なものがあれば、期間を間違えずに相殺の手続をとっておくことが必要となります。

5 終わりに

  企業にとって債権を適切に回収することが重要なことは言うまでもありません。しかし、そのためにはどのような方法があるかを知らない経営者が多いことも事実です。
 今回のコラムを参考に債権回収の方法を理解していただければ幸いです。
 また、もし債権回収などでお困りのことがございましたら当事務所までお気軽にご相談いただければと思います。

以上

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